『直筆商の哀しみ』 ゼイディー・スミス

主人公のアレックス・リ・タンデムは、中国人の父とユダヤ教徒の母の間に生まれたイギリス人の男。少年時代に、友だちとともに父に連れて行かれたレスリングの試合で、著名人のサインを集める少年ジョーゼフに出会ったことをきっかけに、サイン(Autograph)を集め、売買し、鑑定することを仕事にする Autograph man になる。

前半は、ちょっとわかりにくかった。だが、ほとんど出回らない、少年時代からのあこがれの女優、キティ・アレグザンダーのサインを手に入れたことで、アレックスがNYに旅立ち、話が急に動き出す後半は、続きが気になって読みやめられないかんじ。

シンボルやジェスチャー、小話、映画の台詞、といった表層的なイメージを通じてコミュニケーションをとるアレックスやその仲間たち。有名人のサインと、上下するその価値、真贋をめぐるやりとりが、こうしたコミュニケーションを象徴的に示している。

親密な関係(恋人のエスター、友人のアダムやジョーゼフ、母親etc..)だって、やっぱり私たちは、何かのシンボルを通じてしか伝え合うことができなくて。
でも、別にシンボル 対 実在 というような対立関係はありえない。

そういうことを、理屈っぽくではなくて、分かる分かる〜、と思えるようなかたちで、差し出されたような小説でした。

『ホワイト・ティース』もやはり読んでみよう。(実は英語で持ってるために、邦訳を読めずにいたという、本末転倒な話)